【告知】創作小説+写真集「白露の王国」

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白露の王国

28P/A5/800円
オンデマンド

【頒布予定イベント】

2017.05.06 COMITIA120 え-51b(七色504)
2017.08.11 C92 1日目 東け08-a

小説:古見もとじ 写真:きりん 被写体/編集:卯月 

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(抜粋1)

僕はただ浅瀬のように薄い個をもって彷徨っている。気が付くとすっかり雨は上がっていて、晩夏の心地よい風が頬を撫でた。
 知っているようで見知らぬ地に草いきれが立ち込め、僕の足を捉えて動かなくさせていた。
僕の漠然とした青い不安を具現したようなどこまでも続く鉄の路。白い太陽が無慈悲に照りつけるジオラマの町。
遠くの方で車両が軋む音が聞こえた。
 記憶の中で、大勢の声と戯れ合った感覚が残っている。しかしそれは順序良く美化された白昼夢に過ぎず、僕の中の、とても真実とは云えない場所にあった。
「残り鷺かい」
 突然足元で小さな声がして、僕は驚いて飛び退いた。
 見るとそこには栗色の毛をした子狐が座り込み、じっとこちらを見つめているのだった。

(抜粋2)
季節が去ろうとしていることだけが分かった。森林はすっかり茹りきって勢いを失くしている。
夏の虫が最後の命を燃やしながら鳴いている。何度も過ぎたはずのこの営みを、僕はまた越えていこうとしている。
僕らを追いかけて、一両の電車がやってくる。秘密めいた水音と河の香りを隠した銀色の小箱が。
何でもない光景のはずなのに、なぜだか背中がすうっとした。
奇妙なことに、電車の中は真っ白なのだ。それは綿菓子のように詰め込まれている羽毛のせいで、隙間から月のように丸く輝く瞳も見えた。
ステンレスの箱が、まるで寝心地の良い枕を呈して、世界で一番不均衡な場所へいざなっていくようだった。

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